皆様へ
新年あけましておめでとうございます。
東京は底冷えがしていましたが、穏やかな三が日でした。
正月の風物詩はいま箱根駅伝ではないかと感じておりますが、圧倒的な強さ
を見せた東洋大学の活躍には目覚ましいものがありました。
「その1秒を削り出せ!」をスローガンにこの1年の練習を重ねたと優勝した
東洋大学の監督がコメントを残しています。
昨年優勝した早稲田大学との時間差が21秒しかなかった悔しさをバネに研鑽
を積んだ結果が大きな差となり結実しました。
今回東洋大学の総合タイムは10時間51分36秒でした。11時間近い長さの中
で1秒はさしたる違いではありません。 往復で10人のランナーがそれぞれ1
秒縮めても言ってみれば10秒にしかなりませんが、その気持ちの積み重ねに
よっておおきな差を生む事を物語っています。
なぜこんな話を書いたかというととても不思議な縁を感じたからです。
わたしは昨年の8月から11月まで富士通デザインのスタッフの方々と「新し
い情報端末の未来像を作る」というテーマでワークショップを重ねておりま
した。
未来像を作り出すという作業の中でわたしがスローガンとして見いだしたの
が「0.1ミリを大切にする」という言葉でした。
新しいという言葉には「遠く漠然とした」ニュアンスが伴います。
言ってみれば「何十メートル」いや「何百メートル」も現在あるカタチから
乖離しなければその新しさを表現出来ないのかもしれません。
デザイナーはその距離感を掴む事に難儀し、その結果生まれるのが「予測し
たその未来たる時代が訪れてもその製品には結びつかない」というプロトタ
イプのためのプロトタイプ作りになりがちです。
わたしは5年先を考える時をする前に、5年前を振り返るという作業をメンバ
ーの方々にお願いしました。
そこで浮かび上がったのは、「5年先を見越したデザイン」ではなくて「5年
を経ても生き残る完成度の高さと飽きのこないデザイン」の重要性です。
もちろんまったく時代を変えた製品がこの5年で生まれましたが、それは機
能と一致した時に生まれるのであってその形状そのもので「飛躍」したとい
うものは稀です。
わたしには5年ではなくて20年前であって50年前に生まれても輝きの失わな
いものがある事を知っています。 それらに共通するのはすばらしいプロポ
ーションであり素材の的確な使われ方であり「細部にわたる完成度の高さ」
が備わっています。
プロポーションも素材も実は機能とコストに起因します。すべてが自由では
ありません。
その中でデザイナーの手腕を見せる重要な部分が「細部への気配り」です。
「人は細部にセンスを感じる」
その気持ちを託したのが「0.1ミリを大切にする」というスローガンでした。
実験的に3Dのスケッチで端末の背面に「0.1ミリの高低差」というか波状の
起伏を描いて見ました。
わたしはそれを実証する為に自分が担当したモデルで実際0.1ミリの高低差
で作成しました。
見事なほどにそれは「伝わった」のです。しっかりと「波模様」が浮かび上
がったのです。
それを見た人はわたしが日頃からそういう0.1ミリデザインをこれまでにも
してきたように思われていましたが、実はそのワークショップの中で自分が
見いだした方法に他なりません。
言ってみれば遠くにある山並みを俯瞰することによって生まれた「繊細」さ
です。内部に所属しないわたしと日々製品で関わるっているという複眼の
中からから生まれた視点です。
今回のワークショップで参加者が作り出したモデルには、それぞれ大胆さの
中に繊細な神経が行き届いていたものが生まれたと確信しています。さらに
言えばそれぞれが商品化されても良い完成度がありました。
それこそがインハウスと「アウトハウス」たるフリーランスデザイナーとの
共同作業の醍醐味です。
東洋大学を牽引した主将の柏原竜二さんは今年富士通に就職する。と書いて
この話は終わる。


